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東明雅の連句Q&A
 

 
17・捌の役割と意義、心得
ACCの教室では、皆さんが捌きができるようにご指導いただいておりますが、捌きの役割と意義、また捌きとして座るとき何が大事かについてお教えください。
 

 
捌き手(宗匠)は、よくオーケストラの指揮者にたとえられるが、私はむしろ、海図もない未知の地へ向かって船出した船長に似ていると思う。

オーケストラには既に楽譜があるので、指揮者はそれに従ってタクトを振り、各楽師がそれぞれの楽器をいかにうまく扱って楽譜通りの音を出すか、それをチェックすれば、演奏の成功は保障されている。それに対して海図のない船長は、あらゆる彼の知識・経験・カン・情報を駆使して、船中の各員がそれぞれの任務を忠実に果たすように注意しながら、船を進めなければならない。目的の地に無事辿りつくか否か分らない。それだけに未知の国へついた時のよろこび、感激は一入であろう。

俳諧にも、楽譜や海図に似たものはない。捌き手は前途の保障は何もないままに、一座の連衆を指導して作品を創り上げて行かねばならない。それには一巻全体の構成を考えて、それに従って連衆の作って提出する一句一句を吟味・添削しながら、時には自分も出句して進めてゆく。だから俳譜の方式や故実に通じているだけでは不十分で、ある時は連衆を鼓舞し、あるいは落ちつかせ、時には暗示し、時には直接要求して変化に富んで、おもしろく、しかも調和の取れた新しい一巻を纏め上げねばならない。

このように、捌くということは大変難しいことであるが、見事、一巻を捌き得た時のよろこび満足感は格別である。私はクラス全体の方々に早くこの満足感を味わっていただきたいと思って、初心のうちから捌きの練習をさせている。そしてこれが俳諧(連句)熟達に到る最も早道だと考えている。

捌き手も船長も、それぞれの場所においては絶大の権力を持っている。連衆の句を採用するか否か、それをどう添削するかはすべて捌き手の一存であり、連衆はそれに従わねばならぬ。それは船長が、その船の中でオールマイティであり、極端に言えば船中全員の生殺与奪の権を握っているのにも似ている。

私の師匠芦丈先生は、捌きの席に着く時の覚悟を「和歌三神を背に負うているというつもりでやりなさい」とさとされた。和歌三神とは和歌を守る三柱の神で、いろいろ異説があるが、住吉明神・天満天神・玉津島神などを指す場合が多い。今日正式俳諧の席で天満天神の名号をかかげるのも、その意味であろう。要するに神にちかって依怙贔屓なく、よい句があったら必ず採用せよという意味であろう。

ただ、そのことも大切であるけれども、私は座の文学たる連句である以上、一座の和を破らぬよう細心の注意も肝要だと思う。
 

●「猫蓑通信」第17号 平成6(1994)年10月15日刊 より

 
 
 
 
 
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