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東明雅の連句Q&A
 

 
8・付きすぎと離れすぎ
俳席でお捌きに、付きすぎている、離れすぎている、ということを言われることがありますが、この辺のことを分かりやすくお教えください。
 

 
連句というのは、前句Aに付句Bを付けて、この付け合った二つの句の間に、新しいAでもない、Bでもない、Cという味を創り出すものです。だから前句Aに対して、付句Bが似かよったもの、近過ぎるものでありますと、AにBをつけても新しいCが生まれる可能性がほとんど無くなってしまいます。このような前句との関係にある付句を、べた付けとか、付きすぎているとか言うのです。

  A  恋の夜思ひがけなく雨降りて
  B   ままよしっぽりこの屋根の下

これでは、AとBとが全く同じで、付け合わせても新しいCを創り出すことはできません。

それで、付句の心得として、「前句の続きを言うな」とか、「前句の根を切れ」とか言われ、前句から離れて付けることが要求されるのです。

  A   おもひ切たる死ぐるひ見よ
  B  青天に有明月の朝ぼらけ

A句からはすぐ戦場が連想されます。これがいわゆる根です。だから直接戦場を付けないで、当日空にあった有明月を出して、その下に展開される戦闘と若武者の姿を想像させる。これがCになるわけです。

このように、付句は前句の根を切って、離して付けると、前句と付句との間に読者の想像が入りこんで、新しいものを生み出すのですが、さればと言って、A・B二句の間を離しさえすればよいというわけではありません。

磁石のN極とS極とは、ある距離の限度でお互に作用するのですが、離しすぎると何の反応も起こしません。磁場の限界があるように、前句と付句にも離すには限界があって、離しすぎると何の反応も生みません。それではAとBから新しいCが生まれる可能性が全然なくなるわけです。

ただ、離れすぎか否かの判定は、個人によって異なり、非常に難しく、はっきり言ってその基準を示すことは困難です。ただ、連句は座の文学ですから、捌きの人の判定、または一座の意見を参考にして、徐々にその程度を会得する外はありません。

元禄時代の「去来抄」には、「今の作者付くることを初心の業の様におぼえて、却て付かざる句多し。聞く人もまた聞こえずと人のいはむことをはぢて、付かざる句をとがめずして、能く付きたる句を笑ふやから多し……と書かれていますが、付いていない句(離れすぎの句)をとがめないで、かえってよく付いている句を初心者の句だとして笑う人は現代にも大勢居ます。まどわされないように注意すべきところです。
 

●「猫蓑通信」第8号 平成4(1992)年7月15日刊 より

 
 
 
 
 
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